2013年6月5日水曜日

タイプライターの思い出

フランス映画「タイピスト!」を見てきました。
時は1959年、田舎娘ローズが保険会社の秘書の募集に応募。社長ルイは彼女が両手の人差し指2本だけですばやく正確にタイプを打つのを見て、彼女をタイピング・コンテストに出場させようと決意。10本指打法の特訓に加え、かつての恋人で今は親友の妻になっているピアノのうまい女性マリーにピアノを教えさせ、世界大会優勝をねらう、という物語。
若い頃はルイはさまざまなスポーツの選手だったが、ついにトップにはなれなかったという苦い思い出があり、ローズをチャンピオンにすることで自分のできなかったことを彼女に実現させようと思っている。また、ルイはかつてマリーと恋仲だったが、彼女に求婚せずに戦争へ行ってしまい、失意のマリーはノルマンディー作戦でフランスにやってきたアメリカ人と結婚してしまう。また、ルイは金儲けよりも正直であることを大切にするので、保険会社もそこそこの業績しか上げていない(でも、そのかわり、よい人間関係を築いている)。
このルイという人物は1番をめざすのが怖いタイプで、いつも2番でいいやと思ってしまう人なのだ。だからスポーツでもトップに立てず、マリーにも積極的になれず、ビジネスも人を出し抜いてまで成功しようとはしない。
そんなルイがタイピングの才能しかないドジな田舎娘ローズを、せめて自分の代わりにトップに立つ人にしようと、彼女を特訓する。ローズはこの上司ルイに恋をしてしまうが、彼はあくまでコーチの立場を貫き、彼女の思いを拒否してばかり。乙女心を理解しないルイにローズは怒りながらも、タイプの世界大会をめざす、という、昔のハリウッド映画によくあったような、男と女が本当は愛し合っているのにけんかばかりという楽しいスポ根コメディになっている。2人を取り巻く人々の人情がまたいい。
昔のタイプライターというのはキーが重くて、力を入れないと印字できないから、コンテストはまさに体力勝負。負けた女性たちが疲労困憊して、抱えられて去っていくシーンが何度も出てくる。ローズはまずノルマンディー地区のチャンピオンになり、続いて全仏大会でも優勝、そこでタイプライター会社と契約、いったんはルイの手を離れるが、ニューヨークの世界大会でハプニングが、という展開。ラブコメとスポ根と人情劇がうまく組み合わさった、よくできた作品です。けっこう感動もしてしまったのだけど、私くらいの世代には、タイプライターはリアルに存在していた物だったので、そっちの方の郷愁もいろいろとよみがえってきました。

私が学生時代はまだワープロ専用機もなくて、一応英文科だったから、卒論も修士論文も英語で書かねばならず、卒論は手書きでよかったのですが、修士論文はタイプで打たないといけなかった。そこで、当時はタイプライターといえば、日本ではオリベッティと決まっていて、私もオリベッティのタイプライターを買ったのです。当時はタイプライターは電動と手動があり(映画に出てくるのはすべて手動)、電動は力を入れなくても打てるのですが、高い。修士論文のあと、英語で論文書くかどうかもわからないので、一番安い手動を買いました。が、これが大変。まず、教則本で10本指打法を独学。なんとかキーの位置は覚えたものの、とてもすばやくは打てません。とにかく重いのですよ、キーが。映画を見てもらえばわかると思いますが、指でキーを打つと、先に文字がついた鉄の棒がインクリボンを紙の上でたたくのだけど、これがかなり力がいる。しかも、小指だと力が入らず、薄くなったり、二重になったりします。そしてもちろん、タイプミスが多い。ワープロと違って、タイプミスしたらその部分を白く塗って上から正しい文字を打つというのをするか、さもなきゃ最初から打ち直し(プロは打ち直しだろうな)。とにかく大変な世界でした。
その後、ワープロ専用機が登場し、英語ばかりか日本語が普通にキーボードで打てる時代になり、しかも、間違えても簡単に修正できるという、実にありがたい時代になったのですが、タイプライター時代に指の練習していたおかげで、キーボードはすぐにタッチタイピングで打てるようになりました。
タイプライターにはパイカとエリートというのがあったのですが、パイカとエリートって何のことかわかる人は今、どれだけいるのでしょうか。これは文字の大きさのことです。パイカの方が大きい。私のタイプライターはパイカでした。
ワープロ専用機を買ったとき、英語を打つときはパイカかエリートを選べるようになっていたのが、当時は感慨無量でした。
その後、さらに技術は進んでパソコンの時代になり、いまや文字の大きさはさまざまにできるので、パイカとエリートは完全に死語でしょうね。
映画も楽しかったですが、タイプライターについての思い出もよみがえったのでした。