2014年9月15日月曜日

Don't Cry Out Loud 歌詞の解説

最近、ドトールへ行くと、なつかしの名曲、メリサ・マンチェスターの「Don't Cry Out Loud」がかかっているのですね。1970年代末の作品で、当時、英文学者になるという夢を追いながらきびしい現実にぶつかり、悩んでいた私にとって、この歌は私を励ましている歌に思えたものでした。
しかし、なぜか、メリサの歌う「Don't Cry Out Loud」(邦題は「哀しみは心に秘めて」だったかな)はアメリカでは大ヒットしたのに、日本ではあまりヒットしなかったのです。そして、そのあと、リタ・クーリッジがメリサとはまったく違う歌い方でカバーし、日本では「あなたしか見えない」という、英語の歌詞とは全然違う邦題がつけられて大ヒット。そして伊東ゆかりが日本語の歌詞で歌い、さらにヒット。そのせいでメリサの歌まで「あなたしか見えない」という邦題にされたとか(怒)。
すばらしい歌唱力で歌い上げるメリサの「Don't Cry Out Loud」に対し、クーリッジの静かな歌い方は私にはインパクトが全然なかったし、その上、日本語バージョンの方はカマトトぶった女の恋心になっちまっていて、ほんと、怒り心頭でありました(クーリッジや伊東ゆかりの方が好きな方、ごめんなさい)。
メリサの歌う「Don't Cry Out Loud」は、夢を追い求めて失敗するという経験を持った女性が、年下の、おそらくは思春期の少女がかつての自分と同じような経験をしているのを見て、彼女に語りかけ、励ます、という内容に思えました。そして、歌い手の私も、きっとまだ夢を追い続けていて、たとえ落ちてもまた挑戦するという強い信念を持っている、比較的若い大人に思えました。メリサの歌唱にはそういう力強さがあるのです。
しかし、クーリッジの静かな歌い方だと、歌い手は娘を諭す母親のような感じです。実際、ベイビーを幼い娘ととっている人が少なくない感じ。
そういうわけで、夢を追いかけて、あと少しで夢に手が届くところだったのに、失敗して落ちてしまい、でも、それにもめげずに生きるという、敗者を励ます歌みたいなところが日本じゃ全然受けなかった理由かな、と思いましたが、好きな人は好きなようで、ブログに自分なりの訳を載せている人もいました。が、これが誤訳が、誤訳が、誤訳が。。。
つか、このキャロル・ベイヤー・セイガーの歌詞がむずかしいんですね。英語の詩としては難度が非常に高いです。サーカスが出てくるけれど、このサーカス自体が比喩である可能性が高い。サーカスで何か別のものを表している可能性が高いのです。それは華やかな愛や夢のある世界だけれど、ショーが終わるとみじめな現実に戻ってしまうような世界。夢を追い求めた人が現実に突き落とされる、そんな状況をサーカスで表現しているようにも感じます。
そんなわけで、いろいろに解釈できる歌詞ですが、一応、私なりの訳と解説をつけてみました。
英語の歌詞はこのサイトからです。
http://www.stlyrics.com/lyrics/intolerablecruelty/dontcryoutloud.htm


Don't Cry Out Loud
作詞 キャロル・ベイヤー・セイガー


Baby cried the day the circus came to town
'cause she didn't want parades just passin' by her
So she painted on a smile and took up with some clown
While she danced without a net upon the wire
I know a lot about 'er 'cause, you see
Baby is an awful lot like me


サーカスが町に来た日に、あの娘(こ)は泣いた
パレードが目の前を通るのがいやだったから
そこで彼女は笑うピエロの化粧をして、ほんとはいやな道化師になると
ネットを張らずに綱渡りをしながら踊ってみせた
あの娘のことはとてもよくわかる、なぜって
あの娘は私にそっくりだから


(解説 サーカスやパレードは晴れの舞台だが、ベイビーと呼ばれる少女はその晴れの舞台に出たかったのに出られない。だから彼女はサーカスが来る日に泣き、パレードが通るのがいやだった。そして、晴れの舞台で主役を張るかわりに、ピエロの扮装をしてネットを張らずに綱渡りの綱の上で踊った。take up withというのは仲良くすべきでない相手と仲良くするという意味。また、clownにsomeがついているが、clownは単数形なので数人のピエロではない。つまり、彼女は本当はピエロになどなりたくないが、しかたなくピエロになってみたということだろう。ネットを張らない綱渡りには彼女の危うさと自暴自棄が感じられる。)


Don't cry out loud
Just keep it inside, learn how to hide your feelings
Fly high and proud
And if you should fall, remember you almost had it all


声をあげて泣かないで
心に秘めて、気持ちを隠すことを学ぶのよ
天高く、誇り高く、飛んで行きなさい
たとえ落ちても、忘れないで、あと少しですべてを手に入れたのだということを


(解説 飛ぶ、落ちる、という言葉には、ギリシャ神話のイカロスの比喩が読み取れる。イカロスは翼を蝋で体につけて飛び立つが、太陽に近づきすぎて蝋が溶け、落下してしまう。ここには無謀なまでに何かを追い求め、あと少しですべてが手に入ったのに落下してしまう若者の姿が見える。歌い手の私もかつてはそうだったのであり、自分にそっくりなベイビーにたとえ落ちても挑戦しなさいと語りかけている。なお、almostは、almost deadというと「もう少しで死ぬところだった=死んでいない」ということで、この場合も「あと少しですべてを手に入れられたのに、だめだった、何も手に入れられなかった」という意味。winner-take-all(勝者がすべてを持っていく)という言葉があるが、勝者がすべてを手に入れ、敗者は何も得られないというアメリカ的な勝敗の世界がこの歌の背景にあるように思う。2番じゃだめなんです。)


Baby saw that when they pulled that big top down
They left behind her dreams among the litter
The different kind of love she thought she'd found
There was nothin' left but sawdust and some glitter
But baby can't be broken 'cause you see
She had the finest teacher-that was me-I told 'er


サーカスが大きなテントをたたんで去っていくと
夢はごみの中に置いて行かれるとあの娘は知った
これが愛の正体なのだと、彼女は気づいた
あとにはおが屑がきらきら光っているだけだった
でも、あの娘の心が壊れてしまうはずがない、なぜって
あの娘には最良の教師がいたからーーそれは私ーーだから彼女に教えてあげた


(解説 夢や愛が裏切られてしまう哀しさを感じる部分。different kind of love(別の種類の愛)とは、ベイビーが思っていた愛は別の種類の愛だった、ということで、愛の裏側、愛の正体、ということだろう。夢破れ、愛が裏切られる感じ。愛は恋愛だけでなく、何かへの情熱も意味しているだろう。私が最良の教師だというのは、私がかつて同じ経験をし、そこから学んだことを意味している。)


Don't cry out loud
Just keep it inside and learn how to hide your feelings
Fly high and proud
And if you should fall, remember you almost had it all


Don't cry out loud
Just keep it inside and learn how to hide your feelings
Fly high and proud
And if you should fall, remember you almost made it


Don't cry out loud
Just keep it inside and learn how to hide your feelings
Fly high and proud
And if you should fall, remember you almost had it all


(解説 この部分はすでに訳した部分とほとんど同じ。ただ、真ん中の最後の行、you almost made itだけが違っている。これは「あと少しでやりとげた」ということで、何度も繰り返されるyou almost had it allを別の表現で言い換えたものです。)


文法的な解説もつけようかと思ったのですが、長くなってしまうので割愛。
音がしっかり韻を踏んでいるので、そこもお聞きのがしなく。


メリサ・マンチェスターは映画「アイス・キャッスル」のテーマ曲も有名ですが、これも歌詞がキャロル・ベイヤー・セイガーで、こちらもなかなかにすばらしい詩です。